海外で働いてみたいと思うようになるまでの話(後編)
前回
今回は何の話?
今回は海外で働いてみたいと思った後、じゃあ実際行くのかどうかを考えたときのことを思い出して書く。 当然ほぼ全て主観であって、誰にでも当てはまるものではない。また、USと言っているのは便宜上なのでGreater Seattle Areaと読み替えるのが正しい。
自分自身行きたいとは思ってもすべての面で海外で働くことが良いとは思っておらず、メリットもデメリットもあると思っていた。
ただ、その考えているメリットやデメリットが本当なのだろうか、というと行く前はそれを検証する方法がないし、 自分の置かれている環境によっても変わってくるため、目につく情報がすべて当てはまるとも言えずなかなか難しい。 ここにデータポイントを1つ足すことで検討している人や迷っている人にそういう視点もあるのか、自分はどうだろうなと考えるきっかけになるとよいなと思う。
似たような情報の情報源としては、前回の記事からリンクされているnoteにも書いた
- エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢 ~渡米・面接・転職・キャリアアップ・レイオフ対策までの実践ガイド
- Kazuki Sakamoto – Medium
⇓の東京からの転籍についてbrain dumpしてみる事にした。まず私には、SFベイエリアが皆にとって地上の楽園なのか地獄なのかは正直よくわからず(今のところ *自分にとって* かなり都合の良い場所だとは思っているが)、なので例えば同業者全般に向けて移住を勧めたりする(続https://t.co/bddAmnnEc9
— Yusuke Sato (@yusk_) January 4, 2021
等々、もっと海外勤務歴が長い方々、いろいろな国、都市に住んでいる方々の経験についても参照するとよいと思う。
メリット
- ポジションが多い
- 待遇が良い
- 投資の助けになる制度が多い
- 子供の教育、特に東京で子供を育てるということについて
- 犬を飼いやすい
- 夏過ごしやすい
- 子供のアレルギーに関して
- ビールやワインの種類が多い
1.ポジションが多い
これには2つの意味がある。1つは"職を失った時に同等の職にありつけるか"という点で、もう1つは"やりたいことができるか"という話。
日本でのポジションには特に不満はなかったものの、チームがなくなる可能性もあれば自分がクビになる可能性もある、というのは頭の片隅には常にある。 そんな中で「もし今クビになったら同じくらいの待遇で自分のスキルが生かせるポジションはどのくらいあるか」ということを考えると、 自分自身はスタートアップよりは大企業の方が好みに合っているし、東京だったとしても見つかる範囲では100はないだろうな、ぐらいの感覚でいた。 単純にオープンポジションの数で言えばUSでは100倍以上の数があるし、都市を選べば企業の数も遥かに多い。もちろんその分人も多いので 競争が激しいというのは変わらないのだが、多いに越したことはないと思う。
また、"やりたいことができるか"というのも単純に規模の問題で、携わってみたい製品の開発チームが日本になかったらそこまでなのである。 この点で本社というのは一番選択肢が多い環境であって、キャリアプランという意味では遥かに自由度がある。
2. 待遇が良い
これは言うまでもなくlevels.fyiやglassdoorなんかを見れば一目瞭然である。同じ職位、ロールであれば(もちろん企業にもよるものの) 聞いた話を総合するとUSに移籍することで額面が30-60%ぐらい増えるのではないかと思う。でも生活費も高いんでしょ?というのはまた後程。
3. 投資の助けになる制度が多い
401k, IRA, 529 plan等(制度を理解する気があれば)税優遇口座の種類、量が多い。日本にもiDeCoやNISAがあるものの投資できる額がもっと多い。
例えば:
- 日本の企業型確定拠出年金: 55,000円/月 (企業からの拠出分を含む)
- 401k : $1,625/月 ($19,500/12, matching分を除く)
とこれだけを見ても3倍近く異なる。もちろんその後の人生計画によってどのくらい必要になってくるかは異なるのだが、多く貯められるならその方が良いだろうと思うし、 自由度があるので(極端な話全部積みたければ積むこと自体はできる、効率的に使えるかは置いておいて)自分の状態に合わせて決められるのはうれしい。
4.子供の教育、特に東京で子供を育てるということについて
これについては全く持って一般化はできない(子供の性格、先生、友人等の影響の方が多い)とは思いつつも考えたことを書く。 基本的な考え方としてはなるべく子供の選択肢が狭まっていく速度を遅くしたいという気持ちがある。
東京での中学受験
自分自身は東京で中学受験をして育ってきて、かつそれが良い方に働いたと思っている。実際問題”詰め込み”と揶揄されることはあっても、知識も意外と大人になってからも役に立つし、 なにより勉強する習慣や同じような競争心を持った人と競うというのはよい経験になると思っている。
ただし、自分がその経験を持っているが故に子供をその環境に置いたときに過度に干渉してしまう気がしているので、 それよりも自分は何も経験をしたことがないUSでの学校生活を送ることでどちらも知らないことだらけだね~という感じでうまく過ごせるのではないかと思う面もあった。 あとは時間もコストも親の気力も子の気力も掛かりすぎる割に結果の分散が高すぎる気がしている。
じゃあ中学受験をさせないという選択肢もあるのではないかと思うのだが、これはその二群間のその後の進路の期待値を見るとあまりないかな、という感じがする。 もちろん学歴や年収のみで比較するものではない(それで比較するならもちろんした方がいいと思う)し、受験すれば成功するということではない。この辺りはデータを持っている訳ではないので完全にお気持ちではある。
日本で女の子を育てるということについて*1
これは自分で経験したことではないが、まだまだ色々な面でジェンダー差というのは埋まっていないのだろうなと思う。都立高校の定員の話、医学部の入試の話、管理職比率の話等何が実際に関係してくるかは 全く解らないし、これから変化していくこともあるとは思うのだけどあと15年、20年という長さだとまだUSの方が自由度があるのかなと思った。
5. 犬を飼いやすい
東京で大型犬が飼える賃貸を探すというのはとても難しいタスクだった。
こちらは犬を飼っている率が高いし、サイズも大きいのでその分選択肢が多い、かつ遊べる場所も多い。
移動もどうせ車なので日本にいたときのように電車もバスも新幹線も載せられなくて出かけるのが大変、ということが減った。
日本で車を持てばいいというのはそれはそうなのだが、掛かるコストも高い(e.g. 駐車場、ガソリン、車検 etc.)
6.夏過ごしやすい
寒いのは比較的耐えられるのだけど湿度が高くて暑いのが本当に苦手で、ここに挙げたくなるレベル。先日シアトルは例外的に暑かったけど基本的には夏は過ごしやすいし、乾燥している。
7.子供のアレルギーに関して
アレルギー対応食が手に入りやすかったり、子供が食事をするところでは対応してくれる所が多い。
下の子が初めは牛乳・小麦・卵アレルギーでお菓子の類もほとんど食べられるものがなく、出張でUSに行った際に米ベースのお菓子を買ったり、豆ベースのパスタを買って帰ったりしていた。
そういった食べ物が(どこでもとまではいかないものの)スーパーで買えたりするのを見て、これが治らないのであればUSの方が食べられるものが多く、外食時や学校での対応としても安心だろうなと思っていた。
8.ビールやワインの種類が多い
これは最早完全に趣味だけど、ビール好きとしてはブルワリーが無数にあっていろいろ飲めるのはうれしい。
デメリット
- 治安
- 子供の教育
- 家族から離れるということ
- 生活が職に紐づいているということ
1.治安
幸運なことに住んでいる地域は治安が良く(子供だけで遊んでいるのもよく見かける)、直接なにか被害にあったということはない。
ただ見知った場所での発砲事件のニュースや、crime mapを見ているといつ巻き込まれてもおかしくない、というのは感じている。 冬になって日が暮れるのが早くなってくるとこれをより強く感じるかもしれない。
2.子供の教育
メリットでも挙げたがこちらにも入れた。メリットの方で自分が教育システムについて知らない方が成功体験に囚われずにいられる、というのを挙げた。
ここでのデメリットはそれによって何が良い方法、効率の良い方法なのかが解らないというのが挙げられる。 もちろん調べることでリスクの軽減はできると思うのだが、USで育った人と同等レベルまで知るのは不可能に近いのではないかと思う。
3.家族から離れるということ
自分は特別家族と仲が良い/悪いというのはないのだが、何か起きたときに物理的に離れているというのはデメリットであると言えると思う。 幸い自分はそれでもUSに来ることにそこまで問題はなかったものの、状況によってはこれはもっと大きなデメリットになり得る。
4.生活が職に紐づいているということ
L-1ビザで滞在している間は滞在する権利が職に紐づいている、なので例えばレイオフであったり少しプライベートな要因でパフォーマンスが出せない、 といった状況でのプレッシャーが大きく、より自由な滞在資格(GC等)を得るまでは心配の種である。
自身には影響がない、なかったけど状況による、あるいは解らないというもの
- パートナーの仕事
- 生活費、物価が高い
- 車必須の生活
- サービスの質が悪い
- 食事が合わない
- 冬が長い
1. パートナーの仕事
パートナーが働いていて、仕事を続けたいが一緒に渡航すると働けない、働くのが難しいというケース。自分の場合は当てはまらなかったので特に問題にはならなかった。
2. 生活費、物価が高い
これは"待遇が良くてもその分生活費も高いんでしょ?"とよく言われることの1つ。個人的には収入も支出もn倍になったら可処分所得もだいたいそれに応じて増えるので問題ないと思っている。 実際生活費が増えたかどうかという点は家賃が2倍以上になったので合計では増えているはず、でもまだよくわからない。
3.車必須の生活
渡米前は嫌だな~と思ってたけどそうでもなかったことの1つ。大丈夫、慣れます。感覚的には日本で自転車乗るような感じ。
4.サービスの質が悪い
カスタマーサービスに電話がつながらないとか、通販の商品が壊れてるとかまぁよくある。一々対応するの面倒だな~とは思うし日本はいいな~と思うことの1つだけどだんだん慣れてくる…
5.食事が合わない
"食事おいしくないんじゃない?"というのもよく言われることの1つ。
多分に好き嫌いによるんだけどUSで食べるとおいしいものを選べばまぁおいしい。今のところは肉全般(特に牛・羊)、フルーツ、メキシカン辺りはおいしいし安い。
高給なものはUSの方が高い気がする。まだ星付きフレンチみたいなところは行っていないので解らないけど基本的に外食は高い。コンビニ飯や牛丼的なものもあまりないのでそれがないと辛い人は辛いかもしれない。
6.冬が長い
これはまだ経験していないので解らないけど雨が降る期間が長い、夜が長いので気分が沈んでしまう人がいるというのは聞く。未知数。
おわりに
とりあえず思いついたことを書いてみた。移住前に色々なブログを読んでいると「そういえばこの面は考えたことがなかったな」ということが多々あったので何かの足しになるとうれしい。
*1:誤解されたくないのだが、日本で女の子を育てるのはダメだというつもりは毛頭ない。あくまでメリットとデメリットがあって比較したときに自分はこちらを取った、というだけの話。